Interview / Founder

一人の職人の信念が、工具バッグの常識を覆した。
──創業者 Rogerが語る、VETO PRO PACのDNA。

「TOOL BAGS THAT WORK」の看板の前に立つ、VETO PRO PACの創業者Roger氏とスタッフ
「TOOL BAGS THAT WORK」を掲げる看板の前で。中央が創業者のRoger氏。

合板パネル、パイプ断熱材、ダクトテープ。1998年のある土曜日、ガレージで生まれた無骨なプロトタイプは、やがて世界の職人たちが信頼を寄せる『VETO PRO PAC』へと結実した。なぜこの工具バッグは、これほどまでに多くのプロフェッショナルに選ばれるのか? その答えを探るために、創業者であるRoger氏本人に話を聞いた。そこで語られたのは、彼自身が抱く現場への愛と機能性、品質への探究心、そして日本の職人たちへの深い敬意だった。

Prototype No.1 — 1998
合板パネル / 発泡パイプ断熱材 / ダクトテープ

Chapter 01

ニューヨークの地下鉄、木製の工具箱に押し込んだ日々がすべての始まりだった。

通勤客で混み合うニューヨーク市営地下鉄の車内
満員の地下鉄に、自作の木製工具箱を抱えて乗り込む日々。そこに最初の“不満”があった。
Q

VETO PRO PACを設立する以前、Rogerさんはどのようなキャリアを歩んでいたのですか?

Roger

いま振り返ると、ずっと現場で手を動かしていましたね。21歳の頃、メイン州で3年間ほど木造船の船大工としてロブスターボートを作っていました。その後5年間は、リフォームと住宅建設。大工組合ではコンクリート構造物の建設にも携わっていました。

昔から何かを作ることが心底好きで、当時はすべての工具箱を木製で自作していたんです。釘やネジを入れる小箱に至るまで、必要なものは自分の手で仕立てていました。

Q

根っからの職人肌ですね。当時、特に印象に残っていることはありますか?

Roger

いちばん印象に残っているのは、熟練の年配の職人たちから「仕事のやり方」や「質へのこだわり」を学べたことです。ロブスターボートや家の作り方を覚えていくのも楽しかったし、同じ志を持つ仲間たちと友情を深める時間もありました。

木製の工具箱を肩に担いだ若き日の職人の写真を使ったVETO PRO PACの広告
木製の工具箱を担いで現場へ。Rogerが職人として歩み始めた頃。

重い木材を運んだり、屋根の垂木を組んだり、蒸気で曲げたホワイトオークを船体にしていく。そういう肉体的にきつい作業も含めて、最後に「やり遂げた」と感じられる瞬間が何よりの喜びでした。あの頃に現場で身についた身体の感覚が、いまのVETO PRO PACの思想や構造にも深く息づいています。

Q

転機となったのはいつ頃でしょうか?

Roger

離婚を機に、ニューヨーク市へ移り住んだ時です。ロフトの改修を行う大工として働き始めたのですが、そこで問題に直面しました。田舎とは違い移動手段は地下鉄だったので、自前の大きな木製の工具箱を持って満員電車に押し込まれるのは、周囲にとっても自分にとっても安全ではないと気づいたんです。

そこで1980年、私は初めて市販のソフトサイド(布製)の工具バッグを購入しました。しかし、それがさらなる悪夢をもたらしました。

Q

どのような問題があったのでしょうか?

Roger

そのバッグの中では、工具がぐちゃぐちゃに山積みになってしまうのです。必要なドライバーを見つけるために、毎回その山を掘り起こす必要がありました。鋭利なノミに指を突き刺されたり、刃先が他の工具に当たって鈍くなってしまったり、苛立ちの連続でした。

「もっと良いデザインがあるはずだ」と、いくつもの工具バッグを買い換えました。しかし市販の既製品の中に、職人としての私を満足させるものはなかった。その不満が、未知の工具バッグの模索へと駆り立てました。

市販の既製品の中に、
職人としての私を満足させるものはなかった。

Chapter 02

1998年、とある土曜日の朝。“縦のポケット”が生まれた瞬間。

合板のセンターパネルにダクトテープを巻いたグリップを備えた、VETO PRO PACの最初のプロトタイプ
1998年に自作された最初のプロトタイプ。合板のセンターパネルを軸に、両側へ縦型のポケットが並ぶ。
Q

そこから、現在のVETO PRO PACの発明へとつながるのでしょうか?

Roger

そうですね。きっかけは1998年のある土曜日の朝でした。ただ、いきなり何かを思いついたというより、ずっと現場で感じていた「小さな不満」が積もりに積もって、ある時に一気に形になった、という感覚でした。

当時はバケツに被せるタイプのメーカーの収納具を使っていたのですが、丸いバケツは持ち運ぶ際に体にフィットせず、工具が脚に擦れたり露出したりするのが気に入らなかったんです。そこで私はポケットから工具を取り出し、バケツの布製のカバーを外し、作業台に平らに置いてみました。

「これを平面パネルに取り付ければ
いいのではないか?」

そう閃いた私は、すぐに合板パネルを切り出し、ジグソーで形を整え、グリップ部分を再現するために発泡パイプの断熱材をダクトテープでぐるぐる巻きにして貼り付けました。

Q

閃いた瞬間、もう手が動いていた。

Roger

ええ。とにかく形にして確かめたかったんです。見た目はかなり荒削りでしたけどね。しかし、その合板を「センターパネル(中心の骨組み)」として、両側に縦型のポケットを配置した瞬間、確信しました。「これだ」と。

バッグが自立し、中身が一覧でき、持ち運ぶ時も体に負担がかからない。さらに、ジッパーで閉じて中身を隠したり保護したりできるのではないかという機能もそこで思いつきました。

VETO PRO PACの当時の設計図ラフ案
当時書き出した設計図ラフ案

さらに、摩耗や湿気から中身を守り、荷物を詰め込んだ工具バッグの安定性を高めるプラスチック製の底部。これこそが、タフな現場には不可欠だと直感したのです。

Q

なるほど。現場で感じていた問題を、一つずつ設計で解きほぐしていった先に、この構造があったんですね。

Roger

その通りです。必要な工具を、必要な瞬間に、迷わず取り出せる。そこに集中するために辿り着いた形でした。実際にそれまで、工具を垂直に配置して素早く簡単に取り出せるようにデザインされたバッグは世界中のどこにもありませんでした。

私は熟練の職人として40代を過ごしてきましたが、この時は自分が将来バッグメーカーを立ち上げるなんて、夢にも思っていませんでした。それでも、最初のプロトタイプを作り終えた瞬間に「この構造こそ、市場にあるどの製品より優れている」と確信した、その感覚はいまも鮮明に覚えています。

Chapter 03

「良いツールバッグとは、それ自体が『ツール』である。」

使い込まれたTECH OT-MC
使い込まれたTECH OT-MC
Q

Rogerさんにとって、「いい工具バッグ」を一言で定義すると何になりますか?

Roger

「機能性」これに尽きます。私にとって、よくデザインされた工具バッグとは、単なる収納用品ではありません。作業に必要なものを持ち運び、即座に取り出すという機能において、それ自体がひとつの「ツール(道具)」として性能を発揮します。

また作り手のこだわりが感じられる、高い「品質」も重要ですね。私は何であれ質の高いものが大好きです。タフで頑丈、そして洗練されたデザイン。いい工具バッグを定義するうえで欠かせない条件だと思っています。

Q

機能と品質の両方を一貫して重視されているのですね。そうしたものづくりに対する考え方は、昔からRogerさんの中にあったものですか?

Roger

はい。私は幼い頃から「もの」を作るのが好きでした。その中で、自分の手と頭を使って、自分が作りたいものやビジョンを実現できる能力に気がつきました。それはロブスターボートを作る時も、工具バッグを作る時も同じです。目の前にないものを脳内で組み立てて、手を動かして具現化する。

VETO PRO PACを創業したのは50代になってからですが、その根底にあるのは、長年の職人生活で培った「頭の中の構想を手を動かして具現化する」という職人としての矜持です。

VETO PRO PACのツールベストとツールベルトを身につけ、スライド丸ノコで木材を切断するRoger氏
50代での創業から現在まで。Roger氏はいまも、自らの手で作り続けている。
Q

とはいえ全く未経験での工具バッグの開発となると、その構想を「具現化」するまでには相当な困難があったのではないでしょうか?

Roger

そうですね。それまでツールバッグをデザインした経験は一度もありませんでしたから、設計から製造までのあらゆるサイクルを完遂するのは、相当な覚悟が必要でした。実際、形にするまでには何年もかかりましたね。

それでも、頭の中には「バッグがどうあるべきか」という明確なビジョンがありました。「最初のVETO PRO PACを形にする」という強い意志と情熱だけが、私を突き動かしていました。会うべき人には全員会う。目の前の扉が閉ざされたなら、別の扉をこじ開ける。そうして前に進んできたのです。

Q

もし今、当時のご自身にアドバイスをするとしたら、何と声をかけますか?

Roger

過去を振り返って、後悔していることは一つもありません。私がやってきたことは、すべて「本物」だと自負しています。壁にぶつかりながらも情熱を注いだすべてのプロセスが、今の成功につながっているからです。

Chapter 04

あの日の“信念”が辿り着いた場所。──日本の職人たちへ。

工房のRoger。TA-XL APRONとともに。
工房のRoger。TA-XL APRONとともに。
Q

VETO PRO PACの「細部へのこだわり」は、日本の職人文化とも深く通じるものがあると感じます。Rogerさんは、日本の職人やものづくりにどのようなイメージをお持ちですか?

Roger

深い敬意を抱いています。住宅建築における大工の木工技術、家具作り、そして建築や造園における、洗練された美意識。日本の職人たちが持つ技術、精神性、細部へのこだわりは世界でも類を見ないものです。

Q

道具に対して非常に厳しい目を持つ日本の職人たちが、今、こぞってVETO PRO PACを選んでいます。率直な思いをお聞かせください。

Roger

思い出すのは、1998年のある土曜日の朝に自作した、あの荒削りなプロトタイプです。

「工具をきちんと収めて、必要なときにすぐ取り出し、そのまま安全に持ち運ぶ」この職人にとって切実な問題を解決できると確信したあの日のアイデアが、海を渡り、いま多くの日本の職人たちの手に渡っている。その事実に、私は心から感動しています。品質に厳しい日本の皆さんに、私たちのバッグを選んでいただけることに、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

Q

最後に、日本のユーザーへメッセージをお願いします。

Roger

私たちのバッグが、皆さんの日常の仕事をよりスマートに、より快適にしているのなら。VETO PRO PACの創業者として、そして皆さんと同じ道具の重みを知る職人として、これ以上の喜びはありません。

Roger氏からのメッセージは動画でもご覧いただけます。YouTubeで見る
展示会場で、1998年製プロトタイプの合板センターパネルを手にするRoger Brouard氏
あの日の合板パネルを手に。その構造は、いま海を渡って日本の現場に届いている。

Profile

Roger Brouard / ロジャー・ブルアード

VETO PRO PAC 創業者。21歳からメイン州で木造船の船大工としてロブスターボートを手がけ、その後リフォーム・住宅建設・コンクリート構造物の施工に従事。ニューヨーク市で大工として働くなかで既製の工具バッグに限界を感じ、1998年に合板を用いた最初のプロトタイプを製作。50代でVETO PRO PACを創業した。

Tool Bags That Work

あの日の構造は、いまも変わらない。
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